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2019/07/04更新

精神科医のコラム8/8【精神科医のひとりごと〜精神疾患を持つ人への偏見をなくしていくために〜】

精神科医のひとりごと〜精神疾患を持つ人への偏見をなくしていくために〜

偏見を無くす

三大疾病から四大疾病へ。精神疾患は誰でもなり得る病気。

 

昔は、がん・成人病・脳卒中を合わせて三大疾病と言っていました。「この保険なら、三大疾病になってしまっても加入できます、大丈夫!」と言った保険のCMなど、見覚えのある方もたくさんおられるのではないかと思います。

 

それが、現在はそれに精神疾患を加えて四大疾病と言っています。それは、なぜでしょうか?

 

実は、がん・成人病・脳卒中になる人と同じくらい精神疾患になる人が多くなってきて、見過ごせない状況になってきたのです。

 

がん・高血圧・高脂血症・脳卒中を患った人は、身近にたくさんいませんか?

 

実は、精神疾患になっている人もそれと同じくらいいるのです。ただ、精神疾患はまだおいそれと口に出す時代ではありませんから、あなたの耳に届いていないだけかもしれません。

精神病院

精神障害患者を私宅監置していた時代から、精神病院の乱立時代。

 

明治時代になって、精神障害者は家の中に檻を作っておいて、そこに閉じ込めておくことが普通でした。これを「私宅監置」と言います。今はこの行為は禁じられています。最近のニュースで似たようなことをしていた精神障害者の家族が逮捕される事件を覚えていますか?

 

なぜ「私宅監置」だったのか、それは簡単で、精神科病院が足りなかったからです。また、身寄りのない精神障害者は河原で浮浪者などとして生活していたとも言われています。

 

第二次世界大戦が終わり、東京オリンピックに向けて、「治安を向上する」ことの一環として、「精神障害者を収容」するべく、精神科病院は乱立してきました。また、「私宅監置」が法律で認められなくなって、自宅に閉じ込めておくこともできなくなりました。そのため、精神障害者をとにかく押し込んでおけるところということで、精神科病院の乱立にも拍車をかけます。

 

昭和30年代〜昭和40年代のことです。行き倒れの浮浪者も、精神遅滞で話が伝わらない子どもも、精神障害者も、あっという間に精神科病院に入院させられて行きました。

 

その当時に精神科病院に入った人は現在高齢となり、「新幹線を見たことがない」という人や、「携帯電話って何?テレビで聞いたことはあるけど・・・」という状態です。そんな人たちが今この現代においてもたくさんいます。

 

その効果が出たのか、元々の国民性か、時代の流れかはわかりませんが、日本の治安は世界でも有数の治安の高さを誇っています。

地域移行

精神病院への「隔離」から「地域移行」を目指す現在。

 

精神科病院にいまだに入院し続けている人は、数え切れないほどにいます。現在新しく入院する人は3ヶ月程度で帰ることがほとんどですが、40年、50年と病院から出たことのない生活をしている人たちがいます。

 

現在国は、医療費をどうにか減らすことができないか、精神科の病床数をどうにか減らすことができないかと言って、「地域移行」を目標に掲げています。

 

40年、50年と入院を続けていた人を、「地域社会での生活」に移していこうという作戦です。幸い、長期間入院している人たちは高齢になっていますので、高齢の人が使うグループホームやサービス付き高齢者住宅といった介護保険の制度を使って、地域に戻ってもらおうとなっています。

 

40年、50年と病院にいたけれど、ずっとずっと治療が必要な状態ではなく、「帰る場所がない」「自分で自分のことができない」から入院し続けている、という状態だったからです。

 

病院から施設ではあまり変わらないのではないか、と思う人がいるかもしれません。でも、入り口に鍵のかかっていない場所でする生活、自分一人だけのテレビを持てること、病院を出ることで発生するメリットはたくさんあります。

 

今、病院内はその「一歩踏み出す勇気」を持てるように、医療者が一丸となって地域移行を目指している。そんな状況なのです。

マスコミの偏見

犯罪が起きるたびに「精神疾患を持っていたかどうか」を報道するマスコミの偏見

 

この間、吹田市で交番のお巡りさんが刺されて拳銃が奪われた事件のことを覚えていますか?「犯人は精神障害者手帳を有しており」と、捕まる前の段階から聞き飽きるほどにテレビがそう繰り返していました。

 

日本の法律では、「推定無罪」という法則に則っています。起訴され、裁判によって有罪が確定するまではその人を「無罪」として扱うという法則です。

 

この推定無罪を採用している日本において、まだ逮捕されていない「犯人とされる人物」の重要なプライバシーである、「精神障害者手帳を持っている」という情報を、報道することは間違っています。

 

そして、精神疾患のある人の犯罪が「必ず」無罪になるわけではありません。精神疾患の症状に左右されて懲罰よりも入院治療が必要となると無罪になる可能性も無きにしも非ず、ですが、「理非善悪の判断ができて」「衝動制御能力がある」場合は普通の人と同じように裁かれることになります。

 

てんかんの患者さんの交通事故については、「てんかんの影響が確定した段階」で報道することはありえるかもしれませんが、最初からの報道はおかしいです。

 

そして何より、「この犯人には高血圧の持病があったそうです」とか、「この犯人には糖尿病の持病があったそうです」といった報道は、聞いたことがありませんよね?

 

精神障害を持っている、手帳を所持している、というのは基本的には人間にとって最大限のプライバシーの内容だと思いますので、そう簡単に報道されることは間違っていると思います。

犯罪者予備軍ではない

精神障害患者は犯罪者予備軍ではない。

 

では、精神障害患者は犯罪予備軍なのでしょうか?

 

こういった印象を操作してくるマスコミも間違っています。精神障害者の犯罪率は普通の人よりも低いと言われています。

 

断言できます。精神障害患者は、犯罪者予備軍ではありません。過度に怖がられることも、世間から隔離される必要もない、「病気によって苦労している人たち」でしかありません。

人生の終わりではない

精神疾患を患ったことは「人生の終わり」ではない。

 

今までにも何回か書かせていただきましたが、歩道を歩き、青信号で道路を横断していても、不運にも交通事故に巻き込まれることがあるように、精神疾患を患うのも、「運が悪かった」としか言いようがないことです。

 

昔は、今のようにいろいろな薬がなく、精神疾患にかかってしまったら、あとは荒廃していくのを待つだけ、といった時代もあったでしょう。そうなると「運が悪かったね」だけで済ませたくないという気持ちもわかります。

 

しかし今は、様々な病気に効果的な多種多様な薬剤があり、精神疾患を患ったからといってそこで「人生が途切れる」わけではありません。

 

「精神疾患を持ちながらの新しい人生」の始まりです。決して終わりではありません。

 

精神疾患を持ちながらの人生は、苦労もするかもしれません。しかし、持たないままに過ごしていたらわからなかった人の優しさや、暖かさに、触れることができたかもしれません。

 

精神疾患を患っても「人生の終わり」だと悲観的になる必要はないのです。

より良い人生

精神障害者でも「より良い人生」を目指す権利はある。

 

若くして精神疾患を患ってしまい、「もう結婚できない」とか「子どもをもつことは諦めよう」と早々にして言っている人がいますが、そんなに早くいろいろなことを諦めなくてもいいと思います。

 

「より良い人生」「自分の想像する理想的な人生」を、精神疾患になっても、目指すことは十分に可能です。

 

そのためにお薬や支援者の力は必要かもしれませんが、何もかもを諦めるのは間違いです。今は苦しいかもしれないけれど、明るい未来すら否定する必要はありません。

世間の人々

世間の人たちから「偏見」を持たれないために出来ること。

 

先ほど、精神障害者は犯罪者予備軍ではない。過度に恐れる必要はない、と書きました。

 

では、一精神障害者であるあなたにできることはあるでしょうか?

 

それは、地域社会の中で生き生きと明るく生活すること。よく出会う人がいたら挨拶をし、無理のない範囲でコミュニケーションをとってみましょう。

 

そうすると、その相手の中の「精神障害者ってみんな変な人のはず」と言った思い込みを少し和らげてもらうことができます。

 

一人ができることは限られていますが、「私の周りにもそういう人いるけど、いい人たちだよ」と言った口コミの力は、今やネットを介して大勢に伝えることもできます。

 

普通の人でも、精神障害者でも、犯罪を犯す人はいる。でもそれが一部であることを「精神障害者」というフィルターをかけることで「みんなが犯罪者予備軍」と思ってしまうのが世間の目ではないでしょうか。

 

だったら、百聞は一見にしかずで、目の前の精神障害者であるあなたが、そのイメージを払拭していけばいいのです。

 

もちろん、調子の悪い時に無理をする必要はありません。調子がいい時だけで構わないので、普通の人とそんなに変わらないんだ、と思ってもらえる姿を見せましょう。

引きこもり

もし「引きこもっている人」が身近にいたら。

 

引きこもりの男性が、小学生がバスを待っている列に突っ込んだ事件、覚えていますか?また、引きこもりの中年になった息子を高齢の親が殺害した事件、覚えていますか?

 

「引きこもり」という人はたくさんいます。しかし、その中で精神障害者はたったの4割弱だそうです。

 

おそらくこの数字は、「薬物治療が必要な精神障害者」の数なのではないかと思います。でも、何の病気もないのに引きこもっている6割の人たちは、ひょっとしたら「人生なんてもう終わっている」と思っているかもしれません。

 

そんな人が身近にいた時に、出来ることはなんでしょうか?

人生100年時代の幸せ

人生100年時代、何歳からでも「幸せ」を追求していける。

 

人生が100年あると言われる時代になってきました。そうすると、折り返し地点は50歳です。引きこもりの8050問題と言われますが、引きこもっている50歳の子どもは、まだ人生の折り返し地点ですらないのです。

 

引きこもり支援というのは難しく、プロに頼んでもうまく行ったり行かなかったりだと思います。

 

でも外に飛び出すきっかけを待っている人は、その中にいるのではないでしょうか。

 

50歳だってまだ遅くない。人生の折り返し地点に過ぎないから。

 

何歳からでも「幸せ」を追求していけるのです。最初に思い描いていた「幸せ」ではないかもしれません。でも、外の世界に関わることは「怖くない」し「幸せになれる」。このメッセージを発信し続けていきたいと思っています。

働く

人生100年時代だからこそ、今こそ精神障害者も「働ける時代」に。

 

年金をもらっても、人生を生き切るためには2000万円が足りない、と言った試算が出たとか、もっと必要なんじゃないかといった話が飛び交っています。

 

でも、それなら障害者枠でも、正規枠でも、フリーターでも構わないから、「精神障害者も働ける時代」にするべきではないでしょうか。

 

今、障害年金を受けながら、仕事がしたいという思いを抱えている精神障害者の方を、働ける環境を整備して、「障害年金をもらう立場」から「年金保険料を納める立場」に代わってもらってはいかがでしょうか。

 

働き方改革が叫ばれて久しいですが、今いる人たちの働く環境も整備して、「どんな障害がある人でも働ける、生きがいを持てる」そんな世の中を目指して欲しいと思います。

隔離病棟

精神病院への「隔離」に発想を戻すことをやめてほしい〜精神科医の願い〜

 

やまゆり園の悲劇を覚えておられる方は多いと思います。あの犯人が、「措置入院(自傷他害の恐れがある人の強制入院)退院後」だったことから、物議を醸し出しました。「その犯人を世間に出した事はいかがなものか」といった発言が目につくようになりました。

 

でもそれは、「世間に対して牙を向けそうだからとりあえず精神科病院に隔離しておけ」といって精神科病院を乱立していた時代に、逆戻りすることになります。

 

やはり目指すべきは地域移行であり、どんな形でもいいので就労であるべきです。

 

このままでは世論が「犯罪者予備軍は隔離しておけ」といった発想に戻ってしまう可能性があります。

 

精神障害者は犯罪者予備軍ではありません。そして、病気ではないのに思想的な問題で人間を隔離しようものなら、それは「人権侵害」になります。民主主義社会においてはあり得ないことです。

 

何の病気も持たない人も、何か病気を持っている人も、明るく楽しく協力し合いながら過ごすことのできる、そんな社会が来ることを、願ってやみません。

 

精神科専門医(精神保健指定医)岡田夕子

 

 

 

 

いかがでしたか?

今回で精神科専門医による精神疾患に関するコラムは終了いたします。

私自身も障害年金の申請に携わる上で必要な知識を学ぶことができました。

また、こういった情報が広がる事で精神疾患に関する理解が社会的に広がる事を望みます。

 

 

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