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2019/06/05更新
精神科医のコラム4/8【自閉症スペクトラム障害(含アスペルガー症候群)の重症化を防ぐには】
自閉症スペクトラム障害(含アスペルガー症候群)の重症化を防ぐには
自閉症スペクトラムとは。今までのアスペルガー症候群と何が違うの?
DSMという、アメリカの診断基準をご存知でしょうか?平成24年、今まで使われていたDSM–Ⅳ–TRから、DSM5に新しくなりました。
そのときに、今まで使われていた「アスペルガー症候群」という診断名が消えて、「自閉症スペクトラム」という診断に変わったのです。
アスペルガー症候群、広汎性発達障害、いろいろな呼び名があったこの「発達障害」に関わる用語が、「自閉症スペクトラム」という名前に変わったのです。
ですから今は、「自閉症スペクトラム」の中に「アスペルガー症候群」が含まれているということになります。
誰しもが傾向を持っている。濃度が濃いか薄いかだけ。
では、「スペクトラム」というのはどういうことでしょうか?
今までは「発達障害か、そうでないか」という、いわゆる「白か黒か」と言った考え方に基づいて、発達障害を考えていました。
でも、実はそうでないことがわかったのです。
スペクトラムというのは、「全く発達障害の傾向のない人」を白、「発達障害の傾向だらけの人」を黒とした場合、人はいろいろな濃度の人がいるという考え方です。
白から黒の間にはいろいろな濃度のグレーがありますよね。みんな誰しもグレーであるというのが「スペクトラム」の考え方です。
誰しもがグレーで、その濃度の濃い薄いを持っているのです。
今は診断を受けていない人がいたとしても、それは「白」というわけではなくて、「グレーだけれども困っていないので診断を受けていないだけ」ということになります。
「障害」と言われるのはどういう状態のことだろう?
「自閉症スペクトラム障害」という風に「障害」とつけられるのは、どういう場合なのでしょうか。
一応、自閉症の度合いを測る質問紙であるAQ―Jでは、32点以上が発達障害の疑いがある、という風に決められています。でもそれだけで「障害」とは言えません。
あくまでも「自閉症スペクトラム障害」という診断を下すのは、診察した医師です。
「障害」という風に呼ばれるというのは、「そのために社会生活に困っている状態」ということです。
誰しもが傾向を持っていていろいろな濃さのグレーだけれど、この人はそのグレーの濃さのために生活に支障を受けているな、と考えられた場合「障害」という言い方をします。
自閉症スペクトラム障害が重症化するというのはどういうこと?
誰しもが傾向を持っていて、社会生活に困っているかどうかで「障害かどうか」が決まっているのだとしたら、「自閉症スペクトラム障害が重症化する」ってどうやって決まるのでしょうか?
これは医師によって考え方の分かれるところではあると思います。
しかしここでは、「重症化」ということについては、「困りごとがどんどん増え続けていってしまうこと」「困りごとのために、困りごと以外の精神的不調をきたすこと」と定義させてください。
自閉症スペクトラムの人がのびのびと生きていくには、少し現代社会は生きにくい世界だと思います。
でも、周りの人の関わりによって、「生きていける」状態を保っていたり、その人自身の工夫によって「生きていっている」人はたくさんいます。
でも、自閉症スペクトラムであるがゆえに、出来ないことをまざまざと実感して自尊心が失われてしまったり、うつ病になってしまったり、そういう人がいます。
自閉症スペクトラムの人は、一度「自分はダメだ」と思ってしまうと、なんでも自分のせいに思えてしまって、うつ病などから立ち直りにくい傾向があります。
そうやって「現代社会との関わりから遠ざかっていく」ことがやはり自閉症スペクトラムが「重症化している」と言えるのではないでしょうか。
重症化すると二次障害が起きてくる。
自閉症スペクトラムの人は、何かが起きた時に「自分のせいだ」と思うことが多いです。
なんなら自然災害が起きた時ですら「自分のせいだ」と思ってしまうところがあります。
そんな純粋さは、とても尊いものです。
でもその純粋さゆえに、現代社会に適応できなくて「適応障害」や「うつ病」を抱えてしまうことがあります。
また、「双極性障害(躁うつ病)」を抱えてしまう人もいます。気分が落ち着かなくて安定しないのです。
二次障害が起きると、その治癒に時間がかかり、また自閉症スペクトラムゆえのこだわりや思い込みから、社会生活に戻るのが怖くなってしまったりします。
そうするとどんどん「現代社会から切り離され」てしまうのです。
二次障害を起こさないためには。
基本的には、まずは「自尊心を高める」ことだと思います。これは、自尊心を失っている人からしたらとても大変なことです。
信頼できる友人一人でいいと思います。
「あなたがいてくれて嬉しい」「いてくれるだけでいい」といってくれる人がいると、自尊心は回復しやすいです。
ただ、そういうわけにはいかない人もたくさんいます。
そういう人は「今日は作業所の作業でこの作業だけはものすごく完成度が高かった」といったような、日常生活の中で、意識的に自分に自信をつけていくことが必要です。
難しいと思います。でも、声に出して自分を褒めてみましょう。
「今日は作業所に行けた、自分、えらい」「今日は仕事を休んだけど、ちゃんと自分で連絡できた、えらい」
文字にすると馬鹿げているように見えるかもしれないです。
でも、「自分は存在だけで価値がある」「自分は頑張っている」と自分に暗示をかけていくのです。
できるところから、変わっていきましょう。
「普通」なんて存在しない。「障害」の状態でなければあなたはあなたのままでいい。
自分って自閉症スペクトラムの傾向あるかも・・・と思っている人、多いのではないでしょうか?
そうやって受診に来る人はたくさんいます。
でももし、働けていたり、主婦をしていたり、生活がお薬なしで成り立っている場合。
「障害」とは思わなくていいのではないでしょうか?
「自閉症スペクトラムだ」と思うことで自分の説明がしやすくなるならそれは構わないと思います。
でも「障害」とまでいうのはどうでしょうか?
あなたはあなたなりの努力を重ねた結果、二次障害を起こさずに社会とつながっている。それはそれだけで素晴らしいことです。
「障害だ」と思わずに、これからもグレーだけど自分なりに生きていけていると思って進んでいきましょう。
自分らしくいられる環境を探してみよう。
例えば農業が盛んだった江戸時代以前は、記憶力のいいアスペルガー症候群の人は天気の予測をしていたとも言われていたりします。
「雲がここにあって、風がこう吹いている日は、何年前のあの日に似てるから、嵐が来るかもしれない」
といったような感じです。
時代が違えば、自閉症スペクトラムの人はすごく重宝されていたのかもしれません。
また、職人芸といった技術は、そういった血筋の人に引き継がれていっていたのかもしれません。
しかし、仕方ないのですが今はそういう時代ではありません。ただ自分がどういう世界があっているのかは探していけると思います。
9時から5時まで決められた時間に決められた通りに出勤するのが、得意な人もいますが、そうでない人もいます。
それであればフレックス形式の会社を探すとか、在宅ワークで仕事をするという手もあります。
また、やはり「専門技術」ということで国家資格を取ることも仕事を探していくことでは有利に働くでしょう。
ただ私にとって適切な環境が、あなたにとって適切な環境かはわからないので、ここはトライアンドエラーでやってみるしかないのです。
生きていきやすい環境を探していきましょう。
ただ、発達障害というのは「発達しない」というわけではありません。人は常に「発達し続ける」ものです。
だから、今の濃度のグレーが一生続くわけではなく、年齢を重ねることで、努力することで、濃度が薄まることもあり得ます。
そうすると、生きていきやすい環境も増えていくのではないかと思います。
苦手なことからは逃げたっていい。今はいろいろなサービスがある。
「手先が不器用で、料理はからっきし」という人は、配食サービスを使うという手もあります。「料理は得意だけど、掃除は無理」という人は、家事代行サービスを使うこともできます。
自宅で苦手なことを無理にやった結果、仕事での許容量が減ってしまっては本末転倒です。
苦手なことからは、逃げてもいいのです。最近はいろいろなことを代行してくれるサービスがあります。
積極的に利用することで、自分のエネルギーを削りにくくする努力も必要かもしれません。
こだわりがあって、これは自分でやらないとストレス!という部分を人に任せる必要はありません。
自分が「誰にやってもらってもいい」部分を人に任せることが大事なのだと思います。
自閉症スペクトラムだとしても、生きていける。自分を大事にしよう。
社会との関わりが断たれて久しい人が、もしここを読んでいたとしたら。
それでもあなたは大事な存在なので、勇気を持って人に助けを求めましょう、と伝えたいです。
引きこもりの人たちの4割は精神障害だと言われています。そのうちの一部は自閉症スペクトラム障害の人でしょう。
あなたのことを受け入れてくれる社会に、徐々になっていっています。
勇気を持って、一歩を踏み出してください。
精神科専門医(精神保健指定医)岡田夕子
いかがでしたか?
私たち障害年金に特化した社労士の下へは自閉症スペクトラムが1次障害とし2次障害でうつ病を発病される方も多く相談に来られます。
背景は様々で幼少期から引きこもりの方もいらっしゃれば、勤務先で適応できず、違和感を感じて通院を開始してから障害に気づく方もいらっしゃいます。
ご自身の障害特性を理解し、無理のない範囲で就労し、障害年金と合わせた所得で生活できれば就労で得なければならない賃金のハードルが下がるため、より現実的な目標を立てやすくなるのではないでしょうか?
障害年金の受給を目指していて、躓いたら勇気を出して社労士へ相談すると問題は驚くほどスムーズに解決するかもしれません。