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障害年金の請求における社会的治癒(総論)

はじめに

障害年金請求における専門的な内容、「社会的治癒」について、その定義、解釈、具体的な適用事例、認定基準と影響を解説します。
医学的な治癒に至っていなくても、一定期間医療が不要で社会復帰が確認されれば、実質的な治癒とみなされ、初診日の再設定や傷病の区分に影響を及ぼします。
国民年金障害等級の認定指針や社会保険審査会の裁決例を踏まえ、内科的疾患(慢性腎不全、IgA腎症、糖尿病性腎不全)における具体例と、保険者による援用の留意点についても説明します

社会的治癒とは?

社会的治癒とは、医学的には治癒に至っていない場合でも、社会保障制度の行政運用の面から、社会的治癒の状態が認められると治癒と同様の状態とみなす取扱いです。
この考え方は、前後の傷病が同一傷病かどうかの判断基準となり、初診日の認定において、社会的治癒とみなされる一定期間が認められれば、前後の傷病は同一傷病ではなく「別傷病」として取り扱われ、初診日が「後ろの傷病につき初めて診療を受けた日」になる効果があるため、請求者が申し立てるものとなります。

社会的治癒の定義とその考え方

認定基準の一般的事項には相当因果関係の記載はあるものの、社会的治癒の定義自体は記載されていません。
国民年金障害等級の認定指針には、以下の用語解釈が示されています。

「社会的治癒」とは

○医療を行なう必要がなくなって社会復帰していることをいう。

○薬治下または療養所内にいるとき、一般社会における労働に従事している状態であっても、社会的治癒とは認められない。(昭42.5.2庁文発第 4885号)

○同じ傷病名であっても、その時に社会的治癒が認められるときは、別傷病として取り扱われる。つまり、社会的治癒は医学的な治癒に至っていない場合でも、社会保障制度の行政運用の面から、治癒と同様の状態とみなす取り扱いであり、同一傷病かどうかの判断の基準となるものです。 

〈解釈例〉

◆質問

内部障害(結核)における「社会的治癒」とは、医療を行なう必要がなく、社会復帰したものをいうと解されている。しかし、今後も療養を必要とする患者が、単に経済的理由のみにより退院し、6ヶ月~1年以上医療をやめ、家事手伝を行なっている場合はどうか。

◆解答

療養の必要性があるにもかかわらず、単に経済的理由によって医療を受けていないものについては、たとえ稼働していたとしても社会的治癒があったものとは認められない。なお、社会的治癒とは、医療を行なう必要がなくなって社会復帰している状態をいう。(昭 43.2.23庁文発第 2.149号) 

社会保険審査会の解釈 

社会保険審査会の裁決書では、度々以下のような社会的治癒の解釈が用いられています。 

○社会保険の運用上、過去の傷病が治癒した後に再び悪化した場合、治癒が認められないとすれば、過去の傷病と同傷病が継続していると取り扱われる。しかし、医学的には治癒に至っていない場合であっても、軽快と再度の悪化との間に、いわゆる「社会的治癒」が認められる場合は、再発として取り扱うものとされる。 

○いわゆる「社会的治癒」が認め得る状態とは、相当の期間にわたって医療(予防的医療を除く)を行う必要がなくなり、通常の勤務に服していたことが認められる場合とされる。 

○この考えに基づき、社会的治癒については治癒と同様に扱い、再度新たな傷病を発病したものとして取り扱うことが許されるとされ、当審査会もこれを是認しています。

社会的治癒の申立てがもたらす効果 

請求者が社会的治癒を申立てると、以下の効果が得られます。 

①初診日証明の補完
過去の傷病の初診日証明書類がカルテ廃棄等により確認できなかった場合でも、社会的治癒後の傷病の初診日証明書類であれば、初診日が確認できる。 

②納付要件の再評価
過去の傷病の初診日において納付要件を満たせなかったとしても、社会的治癒後の傷病の初診日において納付要件を満たせば、障害年金を請求できる。 

③年金種別の変更
従前の初診日では障害基礎年金(または20歳前傷病)に該当していた場合でも、社会的治癒後の初診日であれば、障害厚生年金として請求できる。 

④受給額の向上
社会的治癒期間中に昇給や賞与が支給されていた場合、社会的治癒後の初診日を根拠とすれば、障害厚生年金額が高くなる。

内科的疾患における社会的治癒の具体例

慢性腎不全と慢性糸球体腎炎(IgA腎症)の場合 

年金機構では、慢性腎不全と慢性糸球体腎炎(IgA腎症)との間に相当因果関係が認められる場合、社会的治癒が認められる可能性があります。
慢性糸球体腎炎(IgA腎症)は、比較的若年層に発症し、無症状で検診を契機に発見されることが多いです。
蛋白尿が認められるものの、腎機能は正常であることがほとんどであるため、このような場合、後の社会生活において腎機能に異常がなかった期間を社会的治癒期間と認定できる可能性があります。 

IgA腎症後に慢性腎不全となった場合 

高校生時に慢性糸球体腎炎(IgA腎症)を発症し、腎生検により確定診断を受けた場合、20歳前傷病として障害基礎年金を請求する可能性があります。 その後、社会人となり、会社の健康診断で腎機能に異常なく推移していた場合、数十年後に慢性腎不全が発症し透析となったなら、腎機能に異常がなかった期間を社会的治癒期間として認定でき、障害厚生年金を受給できる可能性があります。 

具体例として、慢性糸球体腎炎後の経過観察期間が1989年から2007年7月までのおよそ18年間で、その間治療や投薬を要せず、通常通りの勤務を続け、管理職にもなっていたため、請求人の初診日が社会的治癒期間(経過観察期間)を経た後、腎臓内科を受診した2007年10月に設定され、障害厚生年金の請求が裁定された事例があります。

(※この事例では、社会的治癒とされた期間中、蛋白尿に異常はなく、血清クレアチニンの検査では軽度の異常があったものの、医師の判断により経過観察となっていた点、また健康診断時に医師から受診の指示があったため、「健康診断後に腎臓内科を初めて受診した日」を初診日として設定したことが、社会的治癒の申立ての有効性を裏付けています。 )

内科的疾患における社会的治癒の具体例② 

糖尿病性腎不全の場合 

糖尿病性腎不全では、糖尿病の初診日が問題となります。
糖尿病は徐々に進行し、自覚症状が感じられにくいため、通院が中断されたり、数十年前のカルテが廃棄される場合が多く、初診日を特定することが困難な傾向があります。 

以下は、受診していなかったために社会的治癒を申立てた事例ですが、健康診断結果では高血糖値が連続して指摘されていたため、社会的治癒が認められなかった裁決事例です。 

事例:健康診断では高血糖と指摘されていることにもあり社会的治癒を否認
本件の場合、健康診断で何度も高血糖が指摘され、医療機関での受診が必要な状態であったと判断されました。
その後、健康診断のたびに血糖値が200~300mg/dlを超える高血糖状態が繰り返されたため、人間ドックを受診した平成○年頃までの期間について、医学的に治療を受ける必要がなくなった医学的治癒の期間、すなわちいわゆる社会的治癒に該当する期間とは認められませんでした。

 

社会的治癒が認められる相当期間とは

「社会的治癒と認められるには、どれくらいの期間が必要なのか」については、個別案件で判断されるため、明確な根拠のある情報は存在しません。
裁決例では年月日が伏せられているため、具体的にどれくらいの期間であれば社会的治癒が認められていたのかを、過去の裁決例から確認することはできません。

また、社会的治癒と認めるのに必要な寛解期間の長さは、傷病の性質によって異なります。
障害を事由とする年金給付の場合と、健保法上の傷病手当金給付の場合とでは、必要とされる寛解期間の長さは同じではなく、傷病手当金の場合は比較的短くても認められるという考え方も、過去の多くの事例から示唆されています。
これらも含め、各事例ごとに検討していくしかありません。

なお、心疾患で社会的治癒が認められた事例も参考として挙げてみましょう。

事例:心疾患(人工弁置換)の社会的治癒
○「医学的な初診日は心雑音を指摘した日である」とのことであったが、障害年金における社会的治癒の申立てにより、8年後を初診日として障害厚生年金を請求し、裁定された。
⇒8年間の事業所における定期健康診断の結果は毎年「A」であり、問診時の聴診でも心雑音は指摘されなかったことなどが主張され、社会的治癒が認められた。
なお、弁疾患以外の心疾患においても、幼少期等に治療歴があったものの、就労後の健康診断で異常が確認できない期間が一定期間続いた後に症状が出た場合などは、再度症状が出て受診した日が初診日として扱われる可能性があると考えられます。

社会的治癒が認められる要素

内部疾患で社会的治癒を認めるためのポイントは、以下の通りです。

①検査数値が数年にわたり正常内であること

内科的疾患は検査数値により症状の有無が確認できるため、健康診断結果や経過観察時の検査数値が重要な要素となります。

②投薬内容が予防的医療の範囲であることが確認できること

③医師の指示により医療の必要がないと判断されていること

自己判断による通院中断は認められません。

④一定期間の継続的な無治療期間が必要であること

内科的疾患の場合、通常4~5年以上の社会的治癒期間が必要とされる傾向があります。

保険者からの社会的治癒援用

過去の受診と現在の受診との間隔が相当期間離れていたとしても、保険者が社会的治癒の概念を援用し、請求者の意思に反して初診日を後方にずらすことは認められていません。

しかし、実際の事案においては、保険者側が社会的治癒を主張するケースも見受けられるため、請求者は客観的な資料や医師の診断書などを十分に提出し、社会的治癒の認定に対して反論する必要があります。

おわりに 

社会的治癒は医学的な治癒状態とは異なる視点から、社会保障制度の行政運用上、実質的に治癒と同等の状態として認定される概念です。
各事例においては、客観的な検査結果、医師の判断、健康診断のデータ、勤務実績などを根拠として、初診日の確定や再発の取り扱いが慎重に判断される必要があります。

皆さまにとって、この解説が障害年金の申請における「社会的治癒」について、少しでも理解を深める一助となれば幸いです。

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