目次
― 初診日の特定が困難だったケース ―
1. 基本情報
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年代:30代
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障害の種類:統合失調症
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等級:障害基礎年金2級(初診日確定後に障害程度を審査)
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年金の種類:障害基礎年金
2. 申請前の状況
申請者様は、長年にわたり統合失調症による症状で日常生活に大きな支障を抱えていました。
最初の裁定請求では、請求人様自身が「特定の精神科を初診日とする」と主張して申請しましたが、当初の厚生労働大臣による処分では次のように判断されました。
「提出された書類では、統合失調症の初診日が請求人の主張日であることを確認できない」
このため、初診日不明を理由に裁定請求は却下されました。
3. 申請の経緯
初診日を巡る課題
障害年金では、初診日は受給権発生の基準日となるため、申請手続き上で最も重要な要素の一つです。
精神疾患では発症時期が曖昧になりやすく、複数の医療機関を受診しているケースでは初診日証明が困難となることが少なくありません。
本件では、申請や申請者様が主張した精神科での受診日を初診日と証明する資料が揃わず、初診日不明として却下されました。
追加調査による事実の判明
再審査請求の過程で、当初の主張日よりも前に、請求人様が交通事故で整形外科に入院していたことが判明しました。
この入院期間中に、入院当日から精神科の併診が行われ、幻覚・妄想や不穏状態に対する治療が開始されていたことが複数の診断書や診療情報提供書により確認されました。
当時の精神科はすでに閉院しており、直接的なカルテは残っていませんでしたが、整形外科の入院記録に基づき、精神症状に対する治療が既に開始されていた事実が認定されました。
相当因果関係による初診日の認定
社会保険審査会は、次のような認定基準に基づいて判断を行いました。
障害の原因となった傷病の前に、当該傷病と相当因果関係がある別の傷病がある場合は、その最初の傷病の初診日をもって障害の原因となった傷病の初診日とする。
これにより、統合失調症の発症に先立ち整形外科入院中に始まった精神科治療が、結果として統合失調症の発症に相当因果関係を持つと認められ、その入院開始日が本件の初診日として認定されました。
4. 当事務所のサポート内容
当事務所は、初診日が不明または証明困難なケースに対して、以下のようなサポートを行いました。
多角的な証拠資料の収集支援
既存の精神科カルテだけではなく、過去の入院記録や整形外科の診療情報、調剤記録、さらには障害者手帳の交付履歴などを収集し、初診日の推定に役立つ資料を整理しました。
相当因果関係の法的適用に基づく立証
複数の傷病が関連する場合に、最初の傷病を初診日とする法的根拠(相当因果関係の原則)を示し、審査機関に適切に説明しました。
医師との連携・診断書作成支援
初診日認定に必要な記録の確認や、医師に対して診断書の記載内容を補足してもらうための情報提供を行い、証明力の高い資料を整えました。
5. 結果と現在の状況
認定結果
社会保険審査会は、交通事故による整形外科入院中に併診された精神科治療を、統合失調症発症と相当因果関係があるものと認定しました。これにより、初診日不明として却下された原処分は取り消されました。
厚生労働大臣は再審査後、保険料納付要件および障害の程度を改めて審査し、障害基礎年金2級の支給を決定しました。
生活の変化
受給により経済的な安心が得られ、治療を継続しながら日常生活の安定を図る環境が整いました。
7. 申請を検討している方へのメッセージ
障害年金申請では、初診日の特定が最初の大きな壁になります。特に精神疾患では発症が古く、複数の病院を受診している場合、証拠資料の不足によって請求が却下されることもあります。
しかし、今回の事例のように、身体疾患での入院時に精神科治療が開始されていたケースでは、その入院記録が初診日を証明する重要な手がかりとなる場合があります。
諦めずに専門家に相談することで、複雑なケースでも解決の糸口が見つかることがあります。初診日の問題でお困りの方は、ぜひ一度ご相談ください。
