目次
― 社会的治癒の認定を得て、受給に至ったケース ―
1. 基本情報
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年代:50代
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障害の種類:双極性感情障害
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年金の種類:障害厚生年金
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受給等級:3級
2. 申請前の状況
発症と経過:請求人様は約30年前に抑うつ症状で初めて精神科を受診し、一定期間治療を受けました。その後、症状が改善し長期間にわたり投薬も不要で通常の就労と生活が可能な時期が続きました。
ところが約15年前に再び気分の落ち込みが出現し受診。当初は「うつ状態」と診断されましたが、その後アスペルガー症候群やADHD傾向が指摘され、躁状態を伴う気分変動が目立ち、最終的に双極性感情障害として治療が継続されました。
日常生活・就労への影響:学習障害傾向により、指示の理解や記憶に困難を抱えていました。再発以降は業務上のミスが増え、希死念慮が持続するなど、就労継続が困難な状況となりました。
3. 申請の経緯
初診日をめぐる論点
障害年金では、障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた日が「初診日」とされます。
本件では、
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最初の受診:約30年前の抑うつ症状での初診
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その後:長期間にわたる症状の寛解と社会復帰(投薬なしで就労可能)
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再発:約15年前に再び医療機関を受診(双極性感情障害)
という経過がありました。
ここで問題となったのは、再発時(約15年前)の受診を初診日として扱えるかどうかです。
もし初診日を30年前とすると、その時点では厚生年金被保険者ではなかったため障害厚生年金の対象外となります。
しかし、最初の発症後に治療を要さず通常の社会生活が長期間続いたことから、この期間は「社会的治癒」に該当すると判断されました。
その結果、約15年前の再発時の受診が新たな初診日として認められる余地があると主張しました。
制度上、「社会的治癒」とは、初発後に相当期間、治療を要しない状態で通常の社会生活を送っていた場合、その後の再発は新たな初診日として取り扱うことができるものです。
書類作成と立証の流れ
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約30年前の初診と寛解後の社会復帰状況を証明するため、当時の医療記録を収集
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再発時(約15年前)の受診が新たな初診日として妥当であることを、「病歴・就労状況等申立書」に時系列で整理
4. 当事務所のサポート内容
当事務所は、複雑な初診日認定が絡むこの申請において、以下の支援を行いました。
初診日特定と社会的治癒の立証支援
長期にわたる病歴を丁寧にヒアリングし、古い医療記録や証明書を収集。社会的治癒期間を明確に示し、再発時の初診日が厚生年金加入期間中であることを立証しました。
病歴・就労状況等申立書の作成支援
発症、寛解(社会的治癒)、再発、現症までの経過を時系列で分かりやすく記載し、初診日問題の理解を促しました。
5. 結果と現在の状況
認定結果
審査の結果、約30年前の初診後に社会的治癒が認められ、約15年前の再発時が新たな初診日として認定されました。その時点では厚生年金の被保険者であったため、障害厚生年金3級が支給決定されました。
受給額(概算)
障害厚生年金3級は報酬比例部分があり、金額は個人の加入期間や報酬額によって異なりますが、受給により経済的負担は大きく軽減されたと考えられます。
生活の変化
受給により経済的な安心が得られ、治療と生活の両立が可能になりました。症状に波がある中でも、安定した療養環境が整ったことは大きな支えとなりました。
6. 申請を検討している方へのメッセージ
「精神疾患では症状に波があり、一度回復したように見える期間があっても、再発時に以前の病気として扱われることがあります。
しかし、今回のように『社会的治癒』が認められることで、再発時を新たな初診日として扱い、適切な年金受給につながる場合があります。
複雑な病歴を抱えていても、諦めず専門家に相談すれば道は開けます。
初診日の問題や社会的治癒の適用には専門知識が必要ですので、ぜひ障害年金の経験豊富な専門家に相談し、最適な方法で申請を進めてください。」
