この事例は、60歳代である依頼者が統合失調症を原因とする障害厚生年金の支給を求めた事案です。
1.基本情報
- 年代: 60代
- 障害の種類: 統合失調症
- 年金の種類:障害厚生年金
- 等級:2級
2.申請内容と傷病名
請求人は、傷病名「統合失調症」により障害の状態にあるとして、事後重症による請求として障害厚生年金の裁定請求を行いました。
請求人は、初診日が平成10年4月(厚生年金保険の被保険者であった期間)であると主張しました。
3.原処分(不支給決定)の経緯と理由
審査では、令和3年6月付けで、請求人に対し、「現在提出されている書類では、当該請求にかかる傷病(統合失調症)の初診日が平成10年4月(厚生年金保険の被保険者であった間)であることを認めることができないため」という理由により、上記の障害給付の裁定請求を却下する旨の処分(原処分)をしました。
4.再審査請求の理由
請求人は、原処分を不服とし、ソシオさんに相談後に代理請求ご依頼に至り、社会保険審査官に対する審査請求を経て、社会保険審査会に対し再審査請求を行いました。
主張としては、本件の初診日は平成25年7月であり、その理由として、症状が一時的に改善し社会生活が可能となった「社会的治癒」に該当するため、新たな初診日として認定されるべきであるというものでした。
5.社会保険審査会の判断
問題点
社会保険審査会は、本件の主要な問題点を「本件初診日はいつと認めるべきか」と設定しました。
社会的治癒の概念
社会保険の運用上、傷病が医学的に治癒したとはいえない場合でも、その症状が消滅して社会復帰が可能となり、かつ、予防的治療の範囲を超える投薬治療を要せず、外見上治癒したとみえるような状態が、ある程度の期間にわたって継続した場合には、これを治癒に準じて取り扱う(社会的治癒)ことが承認されています。
審査会の認定
請求人は平成10年4月頃に被害妄想が出現し、その後医療機関を受診しました。
その後、薬物投与により症状が改善し、平成12年6月から平成25年6月までの間(約13年間)は、症状が安定し、就労も継続できていたと診断書に記載されていました。診断書は「寛解状態であり、予防的に薬物治療を行っていた」と診断しており、社会的治癒の要件を満たすと判断されました。
審査会は、これらの事実から、平成12年6月から平成25年6月までの間は、いわゆる社会的治癒に相当する期間に当たると判断しました。
したがって、新たな症状の増悪後に再度医療機関を受診した平成25年7月が、本件における初診日として相当であると認定されました。
保険料納付要件の確認
請求人は、社会保険審査会が認定した初診日(平成25年7月)において、厚生年金保険の被保険者であり、かつ、初診日の前日において所定の保険料納付要件を満たしていることが認められました。
最終的な裁決
社会保険審査会は、上記の認定に基づき、原処分は妥当ではないとして、原処分を取り消すと裁決しました。これにより、請求人には裁定請求日である令和3年3月を受給権発生日とする障害等級2級の障害給付が支給されるべきと判断されました。
6.結果
この事例は、精神疾患における初診日の認定や「社会的治癒」の概念が、障害年金の支給可否を判断する上で重要な要素となることを示すものです。特に、一度症状が安定し社会復帰していた期間があった場合でも、その後の症状増悪により改めて初診日が認定され、年金支給につながる可能性があることを示しています。
