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この事例は、長年にわたる糖尿病が原因で足に重篤な合併症を発症し、大腿切断に至ったケースです。初診日を巡る争点がありましたが、基礎疾患である糖尿病の初診日を遡って認定させることで、無事に障害等級2級の年金受給につながりました。
1.基本情報
- 年代:60代
- 障害の種類:左糖尿病性足部壊疽(基礎疾患:糖尿病)
- 年金の種類:障害厚生年金
- 等級:2級
2.申請前の状況
基礎疾患の経過
申請者様は、約20年前から糖尿病を患っていましたが、数年間にわたる他院での治療の後、空白期間を経て再び受診されました。
既往歴と合併症の前歴
過去には右足の母趾に糖尿病性の壊疽を発症し、切断術を受けた経験もありました。
左足の新たな発症
令和3年5月頃、今度は左足に発赤と疼痛が出現。同年6月に皮膚科を受診したところ、左糖尿病性足部壊疽と診断され、緊急入院となりました。
緊急手術の実施
壊疽は急速に拡大し、全身状態が悪化。同年6月に緊急で左大腿切断術を施行することになりました。
術後のリハビリ状況
術後は義足を装着し、リハビリテーションに取り組んでいらっしゃいました。
この重篤な身体状況により、日常生活は著しく制限され、障害年金の申請を検討されるに至りました。
3.申請の経緯
申請者様は、左糖尿病性足部壊疽の初診日を令和3年6月2日であると主張して障害給付を請求しましたが、保険者からは「現在提出されている書類では、初診日が確認できない」として却下処分を受けました。
これは、足部壊疽の直接的な初診日のみに着目されたためと考えられます。
障害年金の認定においては、障害の原因となった傷病が別の傷病に起因する場合、その「最初の傷病」の初診日が重要となります。本件では、左糖尿病性足部壊疽は糖尿病の合併症であり、その原因は糖尿病にあります。したがって、糖尿病の初診日を特定し、その時点での厚生年金保険の加入状況を確認することが、受給可否の鍵となりました。
申請者様は、初診日として主張していた令和3年6月の資料は提出できましたが、それ以前の糖尿病に関する記録が不足していました。特に、申請者様が主張する平成18年以前の診療録は残っておらず、受診状況等証明書も得られない状況でした。
4.当事務所のサポート内容
当事務所は、本件の複雑な状況を深く理解し、以下の専門的なサポートを提供いたしました。
基礎疾患の初診日特定
糖尿病性足部壊疽の根源である糖尿病の初診日に焦点を当て、その客観的な証拠を徹底的に収集しました。申請者様の過去の医療機関における「受診状況等証明書」から、平成15年7月に糖尿病で初めて内科を受診していた記録を発見し、これを「初診日認定適格資料」として提示しました。
医学的因果関係の明確化
糖尿病と足部壊疽の間に明確な因果関係があることを、複数の専門医(内科、整形外科、形成外科)からの診断書や意見書を基に、医学的根拠をもって示しました。
複数の医療機関からの情報整理
長期間にわたる複数医療機関での受診歴があったため、それぞれの診療記録、健診結果票、身体障害者診断書・意見書、身体障害者手帳などの資料を整理し、時系列に沿って初診日から現在までの病状の経過を明確に提示しました。
厚生年金加入期間の確認
平成15年7月という初診日が厚生年金保険の被保険者期間中に該当することを確認し、保険料納付要件を満たしていることを示しました。
審査請求・再審査請求の代理
保険者による却下処分に対し、社会保険審査官に対する審査請求、そして社会保険審査会への再審査請求を代理し、提出資料に基づき、初診日認定の妥当性と障害等級の該当性を主張しました。
5.結果と現在の状況
社会保険審査会は、提出した資料を精査し、特に平成15年7月に糖尿病で初めて内科を受診したことを示す「受診状況等証明書」を重視しました。その結果、申請者様の当該傷病に係る初診日を平成15年7月と認め、この日が厚生年金保険の被保険者期間中であったことを確認しました。
さらに、裁定請求日において、左大腿切断術が施行されていることが確認されたため、「一下肢を足関節以上で欠くもの」に該当すると判断し、障害等級2級に認定されるべきであるという裁決が下されました。これにより、保険者による却下処分は取り消され、障害厚生年金2級の支給が決定されました。
申請から裁決までは約1年5ヶ月を要しましたが、適切な初診日認定と障害状態の証明により、障害年金の受給という希望が現実のものとなりました。申請者様は義足でのリハビリを継続しており、障害年金の受給により経済的な不安が軽減され、療養に専念できる環境が整いました。
申請を検討している方へのメッセージ
糖尿病などの生活習慣病が原因で障害を負った場合、その「合併症」の初診日ではなく、「基礎疾患」である元の病気の初診日が重要となることが多くあります。しかし、当時の診療録が残っていなかったり、ご自身で初診日を特定することが困難なケースも少なくありません。
