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この事例は、脳梗塞による失語症の中でも、特に文字言語(読み書き)の障害が重いケースでした。日常会話が比較的可能であることから当初は不支給とされましたが、障害認定基準の綿密な解釈を主張することで、障害手当金が支給されるべきと判断されました。
1. 基本情報
- 年代:40代
- 障害の種類:脳梗塞後遺症、失語症
- 受給等級:障害手当金
- 年金の種類:障害厚生年金(障害手当金)
2.申請前の状況
症状の発症時期と経過
請求人は令和3年6月頃に右手の違和感を自覚し、同年7月には右上肢の不全麻痺と失語症を呈し、脳梗塞と診断され入院しました。回復期リハビリにより、日常生活動作(ADL)や歩行は自立し、音声言語での日常会話も可能になるまで回復しました。その後、令和4年3月に脳血管バイパス術を受け、発語を伴う失語症はさらに改善しましたが、書字困難は残存し、通院リハビリを継続していました。令和5年10月には症状が固定したと医師により判断され、障害厚生年金(障害手当金)の裁定請求を行いました。
日常生活への影響
リハビリにより日常会話は可能であるものの、喚語困難(言葉が出にくい)や書字困難が目立つ状況でした。また、複雑な長文の発話や理解が難しいという困難も抱えていました。
就労状況
診断書では「書字困難が目立つこと、複雑な長文の発話や理解が難しいことに配慮すれば、労働は可能」と評価されていました。
申請を決意したきっかけ
当初、障害厚生年金および障害手当金の支給が認められず、請求人は自身の状態が障害等級に該当すると考え、当事務所と相談の上依頼に至り、不服申し立てを行いました。
3.申請の経緯
初診日の特定プロセス
本ケースでは、初診日(令和3年7月2日)は争点となることはありませんでした。
医師との連携
主治医(脳神経内科医)が作成した診断書が主要な資料となりました。診断書には、音声言語の表出と理解の程度、標準失語症検査の結果(聴く、話す、読む、書く)、日常生活活動能力などが詳細に記載されていました。特に、標準失語症検査における「書く」能力の著しい低さが示されていました
必要書類の準備
脳神経内科医による診断書が主要な提出資料となりました。
申請時の課題や困難
保険者は当初、請求人の「日常会話が誰とでも成立する」という音声言語能力を重視し、障害手当金の基準である「言語の機能に障害を残すもの」には該当しないと判断していました。これが最大の課題でした。しかし、代理人として、障害認定基準において「失語症が、音声言語の障害の程度と比較して、文字言語(読み書き)の障害の程度が重い場合には専門知識を活かした助言、その症状も勘案し、総合的に認定する」と明確に規定されている点を主張しました。本件では、標準失語症検査において書く能力が他の項目と比較して著しく低い値を示していることが重要な争点となり、この文字言語の障害を適切に評価することが求められました。
4.当事務所のサポート内容
具体的な支援内容
失語症における書字困難という、音声言語以外の障害が障害年金支給に与える影響について、障害認定基準の具体的な解釈に基づいた主張を行いました。
専門知識を活かした助言
特に、失語症の認定要領において「文字言語(読み書き)の障害の程度が重い場合には、その症状も勘案し、総合的に認定する」という条項があることを明確に指摘し、保険者の判断がこの基準に沿っていないことを主張しました。
書類作成支援
診断書に記載された検査結果(特に書く能力の低さ)や日常生活での書字困難の具体例が、障害手当金の基準である「言語の機能に障害を残すもの」に該当することを裏付ける重要な要素であると強調しました。
審査対応
保険者が音声言語能力のみに焦点を当てていた点に対し、文字言語の障害を適切に評価するよう求め、総合的な認定の必要性を訴え、再審査請求をサポートしました。
5.結果と現在の状況
認定結果
社会保険審査会は当初の不支給決定を取り消し、請求人が障害手当金に該当すると判断しました。書字困難という文字言語の障害が重い点を評価し、総合的に認定された結果です。
受給額
一時金として約130万円の受給となりました。
生活の変化
症状が固定している状況で障害手当金が支給されたことで、書字困難などの残存する症状に対する経済的支援が得られ、今後の生活の安定につながりました。
6.申請を検討している方へのメッセージ
「脳梗塞後遺症による失語症は、一見するとコミュニケーションに大きな支障がないように見えても、読み書きの能力に重い障害が残る場合があります。障害年金の審査では、音声言語だけでなく、文字言語の障害も総合的に評価されるべきと認定基準に明記されています。ご自身の症状がどの側面に強く出ているかを正確に医師に伝え、診断書に反映してもらうことが重要です。私たち専門家は、そうした複雑な症状についても、障害認定基準を細かく分析し、適切な主張を行うサポートをいたします。」
