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この事例は、精神疾患で治療と休職・退職を繰り返した末、初診日の特定が困難であったケースです。特に、過去の受診歴と現在の症状の関連性、および「社会的治癒」の判断が争点となりましたが、古い診療記録を見つけ出し、厚生年金加入期間中の初診日を認定させることに成功しました。
1.基本情報
- 年代:40代
- 障害の種類:うつ病(気分変調症、適応障害)
- 年金の種類:障害厚生年金
- 受給等級:障害厚生年金3級
- 不支給決定からの認定手続き
2.申請前の状況
症状の発症時期と経過
請求人は高校卒業後、就職し約4年間勤務しました。その後、平成12年に抑うつ症状等で心療内科を受診しました。一度改善するも、平成17年(2005年)に再燃し、仕事を休みがちになり精神科に通院しました。その後も改善と再燃を繰り返し、令和2年には症状が悪化し休職、最終的に退職に至りました。対人関係や通勤のストレスで仕事を長続きさせることが困難な状況が続いていました。
日常生活への影響
慢性的な抑うつ状態により、活動しにくい状況にありました。
就労状況
高校卒業後、複数回の転職を経験しました。しかし、うつ症状により仕事を休みがちになり、人間関係や通勤ストレスで長続きせず、最終的に退職に至りました。
申請を決意したきっかけ
当初、障害給付(障害基礎年金・障害厚生年金)の請求が「現在提出されている書類では、本件傷病の初診日が厚生年金保険の被保険者であった期間であることを認めることができない」という理由で却下されたため、この決定を不服とし、再審査請求に至りました。
3.申請の経緯
初診日の特定プロセス
- 請求人は当初、直近の令和2年を初診日と主張しましたが、保険者(厚生労働大臣)はこれを認めず却下しました。
- そこで、当事務所は、過去の平成12年頃、平成17年頃の受診歴を新たに主張しました。
- 特に、平成12年の診療報酬明細書に、適応障害・うつ状態により同日に医療機関を受診していた記録が確認されたことが決め手となりました。
- 社会保険審査会は、この平成12年を本件傷病の初診日として認定しました。これにより、厚生年金保険の被保険者期間中に初診日があったことが認められました。
医師との連携
最新の診断書、受診状況等証明書に加え、過去の受診を裏付ける古い診療報酬明細書を提出しました。
必要書類の準備
最新の診断書、受診状況等証明書、病歴・就労状況等申立書、そして過去の受診を裏付ける重要な証拠として、古い診療報酬明細書を提出しました。
申請時の課題や困難
- 過去の受診歴について、医療機関名が不明であったり、既に廃院済みであったり、診療録の保存期間(通常5年)を超えていて確認が困難であったことが最大の課題でした。
- 保険者は、請求人の主張する過去の受診と現在の傷病との同一性または相当因果関係が不明であること、および、途中に相当の期間が経過している(社会的治癒)ことを理由に却下していました。
- 当事務所は、請求人が過去にも同様の症状で医療機関を受診していたこと、そして空白期間があったとしても、厚生年金保険の被保険者期間中の初診日を特定することが、障害厚生年金受給資格を得る上で極めて重要であると判断しました。特に、古い診療報酬明細書という客観的な証拠が、過去の受診歴を裏付ける決定的な役割を果たしました。
4.当事務所のサポート内容
具体的な支援内容
初診日特定が最大の争点であったため、過去のわずかな記録から重要な初診日を特定し、それが厚生年金保険の被保険者期間中に該当することを証明するサポートを行いました。
専門知識を活かした助言
過去の受診歴と現在の傷病の相当因果関係の主張、および、「社会的治癒」の概念を乗り越え、より古い初診日を認定させるための戦略について、専門的な見地から助言を行いました。
書類作成支援
複数の医療機関の受診状況や治療の空白期間について、病歴・就労状況等申立書で詳細に説明しました。特に、過去の診療報酬明細書という客観的な資料の重要性を強調し、これを収集・提出しました。
審査対応
保険者の「初診日不明」という却下理由に対し、客観的証拠に基づき初診日を立証し、厚生年金保険の被保険者期間中の初診日であることを強く主張することで、却下処分の取り消しを求めました。
5.結果と現在の状況
認定結果
社会保険審査会は、当初の不支給決定を取り消し、厚生年金保険の被保険者期間中の初診日(平成12年)を認定しました。これにより、障害厚生年金の等級認定手続きに進む資格が確立されました。
受給額
障害厚生年金3級が認められ、年間で最低約60万円の年金が支給されることとなりました。
生活の変化
初診日の認定という最大のハードルをクリアし、障害厚生年金の受給資格が得られたことで、今後の経済的支援の見通しが立ち、治療や生活の安定に向けた大きな一歩となりました。
6.申請を検討している方へのメッセージ
「精神疾患の障害年金申請において、初診日の特定は非常に複雑な課題となることがあります。特に、症状が改善したり、医療機関の受診を中断した期間がある場合、『社会的治癒』が争点となることも少なくありません。過去の医療機関が廃院していたり、記録が残っていない場合でも、諦めずに、診療報酬明細書のような客観的な証拠を探し出すことが重要です。当事務所は、そうした困難な初診日特定のケースでも、豊富な経験と知識で徹底的にサポートいたします。皆様の正当な権利獲得のため、ぜひ一度ご相談ください。」
